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2007年03月23日

●ドイツ●アウクスブルクの薬草園(城戸まゆみ)

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バイエルン州の街、アウクスブルクは大富豪フッガー家による貿易、銀行業務で1516世紀に最も栄えた街です。1514年にフッガー家が救民のために建てた家賃2マルク(約200円)/年の「フッガー屋敷」は世界最初の社会福祉施設です。かつてはモーツァルトの祖父も住んでいたという長家風の団地は、今も当時の家賃のまま福祉施設として使われており、建物には歴史を感じますが、ゴミひとつ落ちていない状態。アウクスブルグは街の歴史も古く、1985年に街の創立2000年祭が行われました。そのとき新しく整備されたに動植物園に薬草園(アポテーカーガーデン)を作ったのが、HOF薬局のアポテーカー、Dr.ハックシュピールです。

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*アポテーカーガーデン全体図とDr.ハックシュピール

Drが私に教えたことが「薬のクオリティを見極める目は経験でしか養うことができない」。そして薬草園を薬剤師が自然観察眼を養う修業・研究の場、そして市民が憩う場として作りました。それから20年、70歳を迎えた今も、この薬草園はDr.ハックシュピールがほとんど一人で手入れや管理を行っているそうです。これを口に入れてごらん、と悪戯っぽく笑いながらDr.ハックシュピールが差し出したハーブを口に入れると徐々に強烈な苦みが口に広がりました。これはニガヨモギ、苦味健胃薬だから脂っこいものを食べた後に摂るといい、ただし1日中口の中は苦いけどね、こんな感じでユーモアとウィットに富んだDrの薬草園ガイドが始まりました。

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*左/ユーカリの木 右/トウゴマ

<ユーカリの木>ユーカリの葉の表面は全部太陽に向かっています。ユーカリは50メートル四方の土地から水分をぐんぐん集め、その水分を葉から蒸発するそうです。その性質を利用してマラリアが発症しやすい沼地に植えることで、湿地が乾燥し蚊がいなくなり、マラリア感染が予防されるのだそうです。また、ユーカリの精油は血圧を上昇させますので、アロマテラピーでは注意が必要です。

<トウゴマ>薬草園ではトウゴマがイガイガの実をつけていました。実の中の4つの種は、測ると4つとも全く同じ重さだそうです。この種を搾って作る油が下剤のヒマシ油です。油は医薬品ですが、残った油粕にはリシンという青酸カリの10000倍の猛毒が含まれます。

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*左/ホップ 右/ケシ

<ホップ>アウクスブルクがあるバイエルン州の公式飲料はビール。そしてビールはホップから作られます。ホップには雄花と雌花がありますが、精神に安らぎをもたらす効果があるのは雌花のみ。バイエルン州ではアルプスから乾燥した風フィンが吹き込むため喉が渇きます。バイエルンの人々は、ホップから作られたビールで喉の渇きと心身をリラックスさせているのです。

<ケシ>ケシには観賞用のケシ(ポピー)とアヘンが採取できる種類のケシがあります。アヘンが採取できるケシは、茎を葉が巻き込んでいるのが特徴です。ここで見たケシは花が終わり実をつけていました。葉の根元の形状を観察すると、しっかり茎を巻き込みまさしく日本で言うところの違法ケシでした。

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*ジャーマンカモミール と ローマンカモミール

<ジャーマンカモミール と ローマンカモミール>西洋ハーブの代表ともいえるカモミールは、紀元前3000年もの昔から消炎、鎮静作用を期待して医療に用いられた薬草です。カモミールには大きく分けてジャーマン種とローマン種があります。Dr.ハックシュピールは、ローマン種は偽物ときっぱり断言。外見ではどちらか見分けがつきませんが、花頭をポキリと折り、茎に空洞があればジャーマン種です。シーボルトはカミツレとして日本にジャーマン種カモミールを伝えています。花から抽出された精油は青緑色、薬効成分は“アズレン”です。皆さんも青いアズレン配合の胃薬やうがい薬、あるいは目薬をご覧になったことがあるでしょう。

5月にケシの花を見かけると葉の形状を観察する、6月にカモミールが咲けばその花頭を折ってみる、道端の草花は有効な、そして危険な薬なのです。薬草を栽培するは難しいかもしれませんが、自生している薬草を観察することで薬剤師としての"感性の刃"を研ぎ続けていきたいものです。
(2005年8月取材)